【裁判例】インフラ提供者の法的責任
昨今、多くの(詐欺的)消費者被害は、直接の対面ではなく、電話・メール・手紙等をきっかけとします。加害者は、これら「インフラ」を利用することで自らの存在を覆い隠し、検挙・責任追及を免れることができます。そのため、これらは加害行為に不可欠な「道具」であるといえます。
加害者は、勧誘等の行為に先立ち、電話機器・現金送付先私設私書箱・銀行口座等の「インフラ」を仕入れます。裏返せば、加害者にインフラを提供する者(インフラ提供者)が存在することになります。
したがって、被害回復の手段として、これらインフラ提供者を調査によって突き止めた上で、加害行為を幇助(ほうじょ)したことを根拠として、共同不法行為に基づく損害賠償請求を行うという手法があります。
このような責任追及の手法は、同種被害を防止する観点からも重要なものです。
以下では、管理者が把握する範囲で、裁判例・文献を整理します(随時加筆・変更予定です。)。
裁判例のうち、「★」は特に参照すべきと思われる事例です。
インフラ提供者の法的責任を肯定した主な裁判例
携帯電話貸与・提供者
- 東京地判平成24年1月25日・先物裁判例集(先裁集)64巻422頁 ★
- 東京地判平成26年12月25日・先裁集72巻186頁
- 高松地判平成29年4月6日・消費者法ニュース112号304頁
- 東京地判平成29年12月13日・消費者法ニュース115号234頁
- 仙台高判平成30年3月13日・先裁集80巻213頁
- 仙台高判平成30年11月22日・判例時報(判時)2412号29頁
- 仙台地裁古川支部判決平成30年12月12日・先裁集80巻255頁
私設私書箱業者
- 東京地判平成26年12月10日・先裁集72巻170頁★
- 東京地裁平成28年1月26日・先裁集75巻317頁
- 仙台地裁古川支部判決平成30年12月12日・先裁集80巻255頁
電話転送業者
- さいたま地判平成28年8月10日・先裁集75巻658頁
- さいたま地判平成30年3月1日・消費者法ニュース116号355頁
- 仙台地裁古川支部判決平成30年12月12日・先裁集80巻255頁
口座提供者・収納代行業者
- 静岡地判平成17年1月11日・判例タイムズ1213号215頁★
- 東京地判平成28年3月23日・先裁集75巻615頁
- 高松地判平成29年4月6日・消費者法ニュース112号304頁
- 東京地判平成29年5月10日・先裁集78巻193頁
事務所(場所)提供者
- 東京高判平成29年12月20日・判例時報2384号20頁★
- 東京地判平成30年10月4日・先裁集80巻245頁
本人確認書類(身分証等)提供者
- 東京高判平成28年1月27日・判時2297号44頁★
海賊版サイトについて、広告主を募り広告料を同海賊版サイトに提供した者
- 東京地判令和3年12月21日→知財高裁令和4年6月29日
インフラ提供者の法的責任に関する文献
- 石川真司「加害者探知の手法と課題(特集 詐欺的悪質商法業者の探知と被害回復)」(現代消費者法22号4頁、2014年3月)
- 村本武志「価値中立的道具の提供と幇助の成否」(現代消費者法23号86頁、2014年8月)
- 渡邉知行「金融商品取引に関与した者の不法行為責任」(加藤雅信先生古稀記念『21世紀民事法学の挑戦』、2018年4月)
- 上杉めぐみ「詐欺的商法を行った者に携帯電話を貸与した携帯電話レンタル事業者の責任と同行為に用いられた銀行口座の名義人の責任」(現代消費者法39号100頁、2018年6月)
弁護士 社会福祉士 宮腰英洋(宮城・仙台)