【刑事】刑事政策と弁護活動

 刑事弁護を行っていると、実刑判決を受けて、矯正施設(刑務所など)に入所することを余儀なくされる方がいます。

 その際には、判決後の矯正施設での生活、出所後の生活など、長期的な視点を持って弁護活動を行う必要があり、そのための基本的な知識として刑事政策を学んでおくことが有用です。
 以下では、私がこれまでに接した文献を整理します(随時更新予定)。

刑事政策に関する文献

刑事政策学
武内謙治=本庄武著(2019年、日本評論社)

 刑事政策を学問として突き詰めた書籍です。分かりやすく簡潔に刑事政策の全体像を把握することができます。
 自由刑純化論(自由刑の内容は移動の自由を制限することに純化されるべきであり、その他の利益を奪ったり制限してはならないという議論。)の立場を取っており、刑事政策の在り方について考えさせられる本です。

刑事政策がわかる[改訂版]
前田忠弘=松原英世=平山真理=前野育三著(2019年、法律文化社)

 刑事政策について網羅的かつ分かりやすく解説されています。
 コラムでは実務的な視点から特定のトピックについて解説されており、実務を意識しながら理解を深めることができます。

刑事政策におけるソーシャルワークの有効性~高齢者犯罪への対応に関する日独比較研究~
鷲野明美著(2020年、中央経済社)

 司法と福祉双方の視点から、刑事政策について分析がなされています。
 高齢者犯罪の現状と課題が網羅的に整理されており、ドイツのソーシャルワークの紹介も充実しています。
 日本の制度への提言箇所についても貴重な指摘がなされており、とても参考になりました。

刑事司法と福祉
(一社)日本ソーシャルワーク教育学校連盟編(2021年、中央法規)

 社会福祉士養成課程のテキストです。刑事政策についても充実した記載があります。
 特に福祉(ソーシャルワーク)の観点からの解説が充実しており、参考になる視点が数多くあります。

エビデンスから考える現代の「罪と罰」~犯罪学入門
浜井浩一(2021年、現代人文社)

 エビデンス・実務の視点を踏まえられた犯罪学・刑事政策についての文献です。
 筆者の経験に基づく矯正の実情等の記載も充実しており、理論・実務両方の視点から犯罪学について学ぶことができます。

死刑制度と刑罰理論~死刑はなぜ問題なのか
井田良著(2022年、岩波書店)

 刑罰理論の視点から死刑制度について深い考察がなされています。
 難解な内容ではありますが論理展開が透徹しており、死刑制度について考えるときは常に立ち戻りたい本です。

特集 超高齢社会と犯罪
(法律時報92巻2号所収)

 高齢者犯罪に対する刑事法上の対応・処遇等について、数多くの参考になる論考が掲載されており、刑事政策の視点も盛り込まれています。

【参考】論文リスト(著者・表題のみ)

  • 太田達也「高齢犯罪者に対する刑事法上の対応の在り方-微罪事犯に対する微罪処分と高齢者サポートセンター創設を中心に
  • 粟田知穂「高齢者犯罪の実態-法務省の実態調査から」
  • 吉田誠治「高齢犯罪者に対する検察の入口支援」
  • 中川忠昭「高齢受刑者の矯正処遇の現状と課題」
  • 調子康弘「高齢者に対する保護観察所の取組」
  • 鷲野明美「罪に問われた高齢者に対する福祉的支援-刑事司法と福祉の連携に関する日独比較から」
  • 古川隆司「高齢者犯罪の実態と司法福祉における課題-介護をめぐる高齢者の犯罪を含めて」
  • 野村俊明「高齢者犯罪と医療」

刑事政策にまつわる諸制度

地域生活定着支援センター

 矯正施設退所段階の出口支援を担う専門機関です。


 (厚生労働省HP)矯正施設退所者の地域生活定着支援(地域生活定着促進事業) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
 (宮城県HP)地域生活定着支援センター - 宮城県公式ウェブサイト (pref.miyagi.jp)

よりそい弁護士制度

 社会復帰、更生支援のための弁護士の活動を弁護士会として支援する制度です。一部の単位会において運用が開始されています。

 (愛知県弁護士会HP)よりそい弁護士制度が始まっています。 - よりそい弁護士制度運営委員会 - 愛知県弁護士会 (aiben.jp)

新自由刑(拘禁刑)について

法制審議会-少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会

 【参考】法務省:法制審議会-少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 (moj.go.jp)

  • 自由刑の在り方(考えられる制度の概要)(第9回会議配布資料)
    懲役及び禁錮を単一化して新たな自由刑(以下「新自由刑」(仮称)という。)を創設…新自由刑の内容及び規定の在り方等、新自由刑の下における加重・減軽の在り方、改正法施行前にした行為の処罰の在り方等が検討課題。
  • 検討のための素案(第12回会議配布資料)
    懲役と禁錮を単一化して,改善更生及び再犯防止のために受刑者の特性に応じて適切な処遇を行う(刑事施設に拘置して,作業を行わせることその他の「矯正に必要な処遇」を行う)ことを可能とする新たな自由刑を創設することとし,刑の種類について,懲役と禁錮を単一化して新自由刑とすること等。
  • 検討のための素案[改訂版](第23回会議配布資料)
  • 最終取りまとめ(第29回会議)
    法務省:第29回会議(令和2年9月9日開催) (moj.go.jp)

国会における議論

刑法等の一部を改正する法律案 令和4年6月13日可決成立
拘禁刑に関するもののほか、実務上非常に重要な改正が多数なされています。
法務省:刑法等の一部を改正する法律案 (moj.go.jp)

【改正法の主な内容】

  • 拘禁刑の創設(12条)…懲役刑と禁固刑の単一化
  • 刑の全部の執行猶予制度の拡充…①保護観察付執行猶予中の再犯についての執行猶予(25条2項但書)、②再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期(上限を1年から2年に引上げ)(25条2項本文)、③刑の猶予期間経過後の刑の執行(27条)(いわゆる「弁当切り」の関係)
  • 侮辱罪の法定刑引上げ(231条)
  • 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律…社会復帰支援に関する規定の創設(106条)、受刑者の作業についての規定改正(93条)
  • 更生保護法…勾留中の被疑者に対する生活環境の調整(83条の2)、更生緊急保護について処分保留釈放への適用拡大(85条1項6号)

【改正の理由】

「刑事施設における受刑者の処遇及び執行猶予制度等のより一層の充実を図るため、懲役及び禁錮を廃止して拘禁刑を創設し、その処遇内容等を定めるとともに、執行猶予の言渡しをすることができる対象者の拡大等の措置を講じ、並びに罪を犯した者に対する刑事施設その他の施設内及び社会内における処遇の充実を図るための規定の整備を行うほか、近年における公然と人を侮辱する犯罪の実情等に鑑み、侮辱罪の法定刑を引き上げる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」

弁護士 社会福祉士 宮腰英洋(宮城・仙台)