【医療】依存症(アディクション)の弁護活動

 弁護士として業務に携わる際、依存症(依存症の疑いがある場合を含む。)の方と関わることがあります。
 具体的には、薬物依存症(覚せい剤、大麻、睡眠薬・向精神薬等)、アルコール依存症、性依存等があります。

 依存症の方の支援を行うためには、表出した物質依存・行為依存のみならず、その背景・原因を探り、真の解決を模索することが重要です。そうしなければ、対症療法的な関わりになり、「スリップ」を防ぐことは困難となりかねません。
 対話を重ねたり、関係諸機関と連携をすることが必要となります。
 また、本人のみならず、家族に対する支援も重要となってきます。

 以上から、弁護士としても、依存症の知識を有しておくことが重要と思われます。
 以下では、弁護活動のポイント(主に治療的司法の観点から記述します。)に加えて、私が今までに接した依存症に関する文献を整理します(随時更新)。

弁護活動のポイント

捜査手続が適法・適正になされているか慎重にチェックする

 特に薬物事案については、職務質問、所持品検査、逮捕手続、捜索差押手続、尿(毛髪)検査・鑑定手続等、捜査が適法・適正になされているか慎重にチェックすべき手続が多数存在します。
 裁判例の中には、捜査手続の違法を理由として違法収集証拠排除がなされた事例も多数存在します。
 捜査手続が適法・適正になされているかをチェックすることは弁護活動の大前提として重要となります。

本人主体の支援

 依存症からの立ち直りのためには、本人の治療・立ち直りへの意欲が欠かせません。
 そのため、周囲からの押しつけではなく、本人主体の支援活動(更生支援)を心掛けることが重要です。本人がどうしたいのか、何を考えているのか等、本人のお話をよく聞いて尊重し、本人が行動を変えるための手助けができるよう、支援方針を策定していくことになります。

依存症の原因・背景事情を明らかにすること

 依存症の原因や背景事情を明らかにすることが重要です。
 物質依存であれば、なぜその物質に依存してしまうのか、行為依存であれば、なぜその行為を繰り返してしまうのか、過去に遡って明らかにし、対症療法的ではない支援を検討する必要があります。
 弁護士は医療の専門家ではないため、医療・福祉とも連携をしながら、本人の人生歴・生活歴・病歴・依存歴等について、本人・家族らから聞き取りを行うなどして、それらの情報を基に支援を構築していくことが重要です。

治療先の確保

 依存症には治療が必要となることが多く、専門の治療先を確保することが重要です。
 通院のしやすさ、家庭・仕事等の関係で、現実的に通院可能な治療機関を選択する必要がある場合もあります。

環境調整-行政・医療・福祉・介護等との連携

 依存症からの立ち直りには、医療・福祉の視点が重要になってきます。
  具体的には、専門医療機関、依存症リハビリ施設、自助グループ(NAなど)、精神保健福祉センターなどのフォーマルな社会資源に加えて、家族・友人・知人等、インフォーマルな社会資源についても、整理・調整を行うことが重要です。
 そのため、本人・家族に利用可能な福祉サービス、介護サービスの選択と構築、行政・医療・福祉・介護等の関係機関との連携、福祉専門家(社会福祉士・精神保健福祉士)との連携によって、本人にとってより良い支援体制を構築することが有用です。

身体拘束からの解放

 逮捕・勾留がなされている場合には、治療・環境調整等のために、勾留からの解放、保釈等の手続を講じることが重要です。特に、専門機関で治療を行うためには、身体拘束からの解放が欠かせません。
 場合によっては、保釈請求を円滑に行うべく、治療機関(入院先)を制限住居とすることも考えられます。

家族への支援

 依存症は、本人だけではなく、家族・周囲も悩みを抱えることが多く、家族からの協力をいただくことに加えて、家族への支援の視点も重要となってきます。家族への支援が、ひいては本人への支援に繋がる側面もあります。
 家族の支援を行う専門機関もあり、同じく医療・福祉等と連携をしながら、家族のご希望・ご意向を尊重し、支援を模索していきます。

薬物依存症 (覚せい剤、大麻、睡眠薬・向精神薬等)

薬物依存症
(松本俊彦著)(ちくま新書、2018年)

 基本的知識が網羅的かつ平易に分かりやすく記載されており、最初に接するべき文献と思われます。
 特に、薬物依存症の心理的社会的要因、刑罰の規制や限界等には、自覚的である必要があります。表面化した症状のみならず、その背後にある問題にも目を向けることが大切と思われます。

アディクションスタディーズ~薬物依存症を捉え直す13章~
(松本俊彦編)(日本評論社、2020年)

 薬物依存症の支援に携わる多くの支援者による、薬物依存症に関する最新の知見に関わる論考がまとめられています。
  「ハームリダクション」など、支援に携わるにあたり知っておきたい知見が数多く掲載されています。

誰がために医師はいる~クスリとヒトの現代論~
(松本俊彦著)(みすず書房、2021年)

 エッセイ調ですが、薬物依存症に関する知識、取り組む際の姿勢など、とても参考になる内容です。
 『薬物依存症』の副読本として良いのではないかと思います。

SMARP-24 物質使用障害治療プログラム
(松本俊彦=今村扶美著)(金剛出版、2015年)

 国内の医療機関で広く実施されている依存症に関する治療プログラムのワークブックです。
 分かりやすい内容ですが文章量も多く、支援者も支援に携わりながら依存症について学ぶことができる構成になっています。

CRAFT 物質依存がある人の家族への臨床モジュール
(H・G・ローゼン=R・J・メイヤーズ=J・E・スミス著)(金剛出版、2021年)

 国内の各機関でも実践されている家族の方向けの支援プログラムです。
 家族支援の視点やポイント等について簡潔かつわかりやすく整理されています。

アルコール依存症(カフェイン依存症等も含む)

対人援助職のための初期介入(インタベンション)入門~依存症者を治療につなげる~
(水澤都加佐著)(大月書店、2015年)

 アルコール依存症は否認の病とも言われます。
 対人援助職として、援助の姿勢、初期介入等に関する知識を有しておくことも重要と思われます。

事例でわかるアルコール依存症の人と家族への看護ケア~多様化する患者の理解と関係構築~
(重黒木=世良=韮澤編)(中央法規、2019年)

 アルコール依存症に対する治療・看護の実際について知っておくことも有用と思われます。
 豊富な実例と看護ケアの実際が具体的かつ分かりやすく記述されています。

ギャンブル依存症

ギャンブル症の回復支援~アディクションへのグループの活用~
(田辺等著)(日本評論社、2022年)

 ギャンブル依存症は、多重債務・自己破産の一因ともなり得る深刻な病です。
 多方面における地領・支援についてまとめられておりとても参考になります。

周辺問題

「助けて」が言えない~SOSを出さない人に支援者は何ができるか~
(松本俊彦編)(日本評論社、2019年)

 「援助希求力」というキーワードにフォーカスし、各分野で支援に携わっている多くの方の論考が掲載されています。
 被援助者視点だけではなく、支援者としても支援に携わる際の姿勢など、参考になる記述が多くあります。
 特に、「自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと」(233頁)という記述は、援助者としても常に念頭に置いておきたい教えです。

「死にたい」に現場で向き合う~自殺予防の最前線~
(松本俊彦編)(日本評論社、2021年)

 依存症の方の支援に携わる際には、自殺の観点は避けて通れないものです。
 各分野で、自殺予防等に取り組む多くの支援者の論考が掲載されており参考になります。

CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック~共に生きるために家族ができること~[改訂第二版]
(境泉洋編著)(金剛出版、2021年)

 家族支援の観点からのプログラムの解説です。
 家族支援に必要な視点・ヒントが多く含まれており参考になります。

社会資源

全国の薬物依存症回復支援施設

 全国の薬物依存症回復支援施設の一覧が掲載されています。
 宮城県内では、仙台DARCさん、アロー萌木さんが掲載されています。
 
 【参考】厚生労働省HP

精神保健福祉総合センター(はあとぽーと仙台)

 お酒や薬、ギャンブル等への依存の問題でお悩みのご本人、ご家族、身近な方々の相談をお受けしています。

 【参考】はあとぽーと仙台紹介ページ

弁護士 社会福祉士 宮腰英洋(宮城・仙台)